映画とどこかまで行こう

主に観た映画の感想を。新作・旧作、劇場・DVD鑑賞混じります。時々テレビドラマも。

シャニダールの花&嘆きのピエタ

  • 『シャニダールの花』

女性の胸に寄生して咲くシャニダールの花を巡る物語。

すごく懐かしい感じがした。こういう、ちょっと不思議な設定の、雰囲気があって映像が綺麗で役者さんがオシャレで、でも物語が中途半端なSFって、昔よくあった気がする。そしてとても若い時分は私もそういうのが素敵でかっこいい、と思っていた。
そういう「個人的ナツメロ」っぽい作品を、昔刺激的な作品を撮っていた監督さんの新作として見せられると、時間が止まっているみたいで居心地が悪い。他人がこんなに変わっていないなら、同じ時間が流れている私も成長できていないんじゃないか?

「女性の胸に花が咲く現象が起き始める。その花は画期的な新薬開発につながる可能性を秘めていたため、製薬会社の研究所に宿主の女性たちが集められ、そこで花を育てることになる」…絵的にはとても綺麗だ。
ただ、その現象が社会でどのような位置づけなのかや、「画期的新薬」って何なのか、一体研究所はどうやって宿主の女性を突き止めるのか、研究所に赴かなかった宿主は一体どうしているのか、などが全く分からない。詳細な設定を決めないのなら、研究所に場面を限定して、個人間のどろどろ密室劇にしちゃえば良かったのに、後半、物語を中途半端に外に出して人類vs植物にまで広げてしまう。そうなると土台も予算もない物語はどうしても安っぽくなる。後半どんどん失速して、ラストシーンは昔の特撮テレビドラマを大真面目に再現したみたいに陳腐だった。…ウルトラQ? 流れる歪んだギターの音も「昔流行った感じ」。
この設定ならもっと色んな手があったのでは?と思うと残念。

個人的には綾野剛が花に魅せられたマッドサイエンティストで、恋人の胸に花が咲いた時に、彼女は心配だけど花をぜひ枯れるまで育ててみたい…!と苦悩する話なら楽しかったのに。それかマッドサイエンティストの所長に狙われた彼女を、調査研究によって救おうとするうちに驚愕の事実が…とか…。
逆に登場人物に、全く研究者的なマニアックさがなかったのが残念(植物の研究者が窓から謎の種を捨てるか?他に生えてる植物へも影響するでしょう?)。元所長が「秘密」を暴露した時の内容のガッカリ感ったら。お前ら全員科学者じゃない!ポエマーだ!
この手の話でマッドサイエンティストが出てこないなんて魅力半減。

女性キャラクターはそれぞれ、こういう女の人いそう…という感じで、とても良かった。逆に男性側はキャラクターがいまひとつ定まらなかった印象。綾野さんは雰囲気のある人だけれど、作り手はそれに甘えたらだめだと思う。

ところで女性が花を身体に宿す話と言えば「うたかたの日々」。そちらのゴンドリーによる映画化、ちょっと楽しみ。

  • 『嘆きのピエタ』

残忍な借金取りの男の前に、昔自分を捨てた母親だと名乗る女が押しかけてくる話。始めは拒絶していた男もじき彼女に馴染み、「愛する家族がいる」という甘美な世界に急激にハマってしまうが…という話。
色んな生き物が首からぶら下げられた。ウナギもトリもウサギもヒトも。

韓国の映画は、描写に容赦がないから覚悟して行く。鶏やウサギが首根っこをつかまれて登場したら、その生き物が助かることは期待しちゃいけないし、痛そうな場面はこちらの顔も本気でゆがむ。それでも、途中で「これ、こういう話か!」と分かった後のどうなるか読めない恐怖感は予想以上だった。
監督にとって女性っていう生き物は、矛盾しながら全てを胎内に呑み込む、大いなる存在なんだろうか。

自分は韓国には行ったことがないので、劇中のもの凄く貧しいバラック街と、繁華街の貧富の差がどれほど現実的なものなのかや、「殺さず怪我をさせて保険金を取る」という方法がどれだけ社会の中でリアリティがあるのかは分からない(行ったことがあっても分からんか)。でも、「母親」の服装がおかしかったのは分かる。
何だかやけに個性的でふわふわした、非現実な服装をいつもしていて、その他に出て来る母親たちと全く違うのだ。もうまるきり、夢の存在みたいなのだ。
どうして監督はあんな風に彼女を撮ったんだろう? 実は主人公の視点で彼が夢見た母親像が映されていて、実際のあの女性キャラクターは、他のおかんたちと似た様なおばちゃんだったのかもなぁ…などと想像。

ラストシーンの恐ろしさと美しさは、前日に観たシャニダールのことはすっかり薄れるレベルだった。

ノーザンライツ2013まとめ その2

  • 『密書』


1914年のサイレント映画。柳下美恵さんのピアノ伴奏付き。
(たぶん)生演奏付きサイレント映画鑑賞は初めて。素晴らしかった…。
セットも映像も美しく、特に風車の下の人影や、窓辺で着替える男の子のシルエットは忘れ難い。

密書に関して無実の罪を着せられた男性を、その妻子が救おうとする話。ヒラヒラの格好の美女が、銃弾爆弾飛び交う戦場と化した野原に夫を救う手がかりを得るべく突入していったり、小さな子供が刑務所に潜入したり、あり得ない頑張りを見せる。後半は「すんでの所で!」の連続で雪だるま式にドキドキ。


何故夫が無実の罪をかぶるハメになったかというと、妻が間男を迎え入れていた事実(誤解なのだが)を明かすよりもマシだと思ったからである。
「男として恥」なのか「一族の恥」なのか(後者かなこの時代?)、など、当時の名誉意識について考えながら観た。
その時代やその国の恥や名誉の意識というのは興味深い。日本であっても例えば能で、戦場で負傷し、弱った身体で下級の者の手にかかる恥を受ける位なら、と自死する話があるけれど、その価値観も今まっすぐに共感は出来ない。
今の価値観で観れば「他に選択肢があるのに!」と思うが、きっと当時の人なら「それなら仕方がない!」と涙ぼろぼろ共感して観た筈だ。その、自分の中にはない「共感する気持ち」を妄想するのが楽しかったりする。


終映後、柳下さんのトークショーあり。
柳下さんは(もちろん)映画自体にも詳しくて、話がとても面白かった。
演奏は基本的に即興で、素材をあらかじめ観ずに、その場で画面を観ながら展開を探り探り弾くことも多いとのこと。演奏者と映画とのセッションなんですね。(それを知りつつまた味わいたいので、別の機会を近いうちに持ちたい…。)
本作で、息子が刑務所に忍び込む場面は、今の映像では昼間に見えてしまって不自然だけれど、製作当時はフィルムに青で着色がしてあり、夜に見えた筈らしい。昔は夜間の撮影が出来なかったので、昼間撮って、フィルムの方を加工したそう。ただ、ネガにはそれは残らないので、当時上映されたそのままの状態というのはなかなか再現できないらしい。
青い着色ってどんな?当時の夜の表現って本来どんな風に見えたもんなんだろう?と、また新たに観てみたいものが…。
映画鑑賞の興味は芋づる式。きっといずれ。

ノーザンライツ2013まとめ その1

久々のブログ更新。今年こそもっと!(と毎年思う)
とりあえず毎年楽しみにしているこの企画の、今年観た物を記録。

  • 『チャイルド・コール』


「心理迷宮ミステリー」ということで鑑賞。はじめ、主人公が何かに巻き込まれてゆくのを見守っていたつもりが、途中からだんだん、あれ?巻き込まれているのは観客か?という気分になってくる、ぐるぐるミステリー。
去年観た『隣人』と似てるなぁと思ったら同じ監督だった(予習不足)。3月から日本公開。



印象的だったこといくつか。


まずはタイトルであり、大事な小道具ともなるチャイルド・コール(ベビー・コール)という製品。
馴染みがなかったので、タイトルでぱっとその製品をイメージできないのが残念だったのだが、室内トランシーバーみたいな物で、別室にいる子供の気配を確認したり、離れた場所から声をかけたりするのに使うらしい。生まれた時から子供部屋がある欧米ならではだね!と思ったら日本でも「ベビー・モニター」という名前でいくつかあるみたい(Amazonのカテゴリにもあった)。


上映後のトークショーでは、最後、司会者からの「日本の映画ファンにメッセージを」に固まる監督の姿。
通訳さんの解説によると、日本では気軽に尋ねられるこの質問は、ノルウェーの人にとってはとても重いもので、即答するのは難しいのだそう。一体ノルウェー語における「メッセージ」というのはどういう語源で、どういう意味を帯びているのだろう?どういう時に使うんだろう?(日本語で喋る時に、カタカナ語の意味を軽く考えがちなのも、きっとよくないんだろうな)
一つの言葉に対して、瞬時に色々と思ったひととき。


監督はこの作品の主人公の最後の選択について「とても勇気がある」と言っていたのには、「どういう点が?」と突っ込んで聞いてみたかったのだけれども、質疑の時間が短くて断念残念。

  • 『ブリーダー』



去年映画ファンから絶大な(たぶん)支持を受けた『ドライヴ』の監督の初期作品。
ただ個人的にはあの作品に対しては、色は綺麗だったけれど登場人物はみんなばかだ…位にしか思わなかったので、まぁせっかくだから何となく観てみた、という感じ。
そんな適当な気分で観始めたらなんと!マッツ・ミケルセンが出てきたではありませんか!(予習不足)
そこで私の気分は急上昇し、また彼が「映画の話しかできないビデオ屋のオタク店員」という役柄で、店にあるビデオの監督名をだらだらだらだらだらだら唱え始めたものだから、さらに盛り上がり、もう後はマッツの幸せを祈るばかりである(せっかくデートの約束を取り付けたのに、びびって行かなかったりするしさ)。
マッツのエピソードは劇中の箸休め的存在で、本来のストーリーは「恋人の妊娠に腹を全然括れない男が暴力性を抑えられなくなっていく」なのだが、そこはあまり記憶にないのだった(女性としてはちょっと残念なストーリーでもあるしね…)。
ストーリーやノリは既存の色んな監督に影響を受けまくった感じ、ではあるのだが、やっぱり色使いがとても綺麗で映像がちょっと他と違うセンス。こういう人が国外に出ていくものなのだなぁ、としみじみした。

新年初DVDは裸のおじいちゃん集団に追いかけられる映画:『レア・エクスポーツ』

年末にツタヤディスカスから借りて放置していたのを今頃観た。
北欧初、サンタクロースを題材にしたブラックコメディ…というような認識だったのだが、これはホラーコメディ?
ホラーによくある「封印されていた邪悪なものを掘り出してしまい、災いが訪れる」という話で、その邪悪な存在が、今まで善きものとされてきたサンタクロース。サンタじゃなくてサタンでした(山羊の角もある)、という駄洒落のような話でしたとさ。


レア・エクスポーツ 囚われのサンタクロース [DVD]

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サンタに仕える「使い魔」的な存在が、見た目「裸のおじいちゃん」そして字幕は「妖精」。
幼少時に読んだ絵本「かじやとようせい」を思い出してときめいた!
この絵本はタイトルが全部ひらがななことから分かる通り、まっさらな子供向けなのだが、「ようせい」は花にまみれた可愛い存在ではなく、子供の夢を破るような気味の悪い妖怪で、「ようせいのとりかえっこ」という、人間をさらって身代わりを置いて行く悪事を働く。鍛冶屋は息子が取り替えっ子に遭い、我が子を救うべく頑張るのだ。
その救い方が凄いのだが、それはまた別の話。


私の中の「ようせい」は、これだよこれ!…とわくわくしていたら、劇中でも主人公の少年の友達が消え、代わりに薄気味悪い人形がベッドに置いてある…という事件が勃発。とりかえっこだ!!!!
(「かじやとようせい」はスコットランドの民話らしいが、色々共通する話はあるのかも)


「ようせい」たちは、親玉の好物である子供(釜茹でにする)を集めるため奮闘し、おとりを追って夜の北欧の大雪原を、素っ裸でわらわらと追いかけて来る。そうそうないインパクトの画であった。
ああ、今年はこんな風に、おじいちゃん達にモテモテの年になるといいな(できれば素敵な…)。


若干、これが新年第一弾ってどうよ、という疑問(不安?)は残るものの、「フィンランドはロシアと接している」(今更…)、「オオオカミ猟は禁止されている」(希少だから?)、「トナカイをあれだけ獲れば8万5千ドル」、「子供と銃についてとか深く考えない」など、異国に関する新たな知識も仕入れ、「あれで大丈夫なのか?」というオチも興味深く、楽しめる作品だったことは確か。


試しに「妖精」を調べてみたら、フェアリーの訳語なのね。西洋の伝承に出て来る超自然的な存在の、善きも悪しきも全部ひっくるめたものを指すのでしょう。シェークスピアの『夏の夜の夢』がそれまでの妖精観を変えたそうな。

海を見ながら走る電車

今年5月に、気仙沼線沿いの道を走った時の写真。



この路線はまだ部分的にしか復活しておらず(代行でバスが走っているようです)、また、今後を考えれば同じ海沿いのこの場所に再び線路を敷くことは考え難く。
以前は本数は少ないものの、仙台駅から電車1本で行けた気仙沼は、さらに遠い場所になってしまい、時々しか訪れない身ならともかく、そうやって他の場所から切り離されてしまうことは、住んでいる人にとってはどれだけ不便で心細いことか!
まだまだ終わっていない色々なことを胸に留めつつ大晦日、再び祖母の家に向かいます。
2012年、いい年になりますように。






















2011年映画ベスト10

よかった順ではなく、あくまでも鑑賞順。


その街のこども


テレビ放映時にも繰り返し観たものだけれど。
子供の時に阪神淡路大震災を経験し、今は神戸から離れて暮らしている男女2人が、1/16に神戸で偶然出会い、夜通し街を歩きながら色んな話をする、という、森山未來佐藤江梨子2人芝居に近いシンプルなドラマ。
震災で受ける心の傷は、決して分かり易い物だけではないのだと気づかされた。他の人と比べたら一見ささやかだったり、見た目美しくなかったりする傷のとてつもない深さに、優しい光を当てた作品だった。こういうことが15年経って、ようやく語れるようになったんだなと思った矢先の今年の震災。また様々な傷が生まれてしまった。


その街のこども 劇場版 [DVD]

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100,000年後の安全


映像も美しかったのだが、考え方が新鮮で。科学者の人が「100,000年の間には、人類は様々な変化を遂げるだろう。今と同じ技術があるだろうか?言語は一緒だろうか?人の好奇心はいつだって旺盛なのでは?この施設が危険な物であることを、どうやったら伝え続けられるのか?」と真剣に未来の人とのコミュニケーションについて考えていて、想像もしたことのない時間の範囲に視野がぶわーっと広がる感じがした。やっぱりヨーロッパの人は時間感覚が違う気がする。日本の方がもっと短いサイクルで物を考えるような。だって100,000年!
放射性廃棄物の厄介さなど吹っ飛んでしまい、ひたすら100,000年の間に遂げる人類の変化や地球の変化について、ひたすら思いを馳せてしまった。これも今観たら、また違うことを考えるのかも。


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嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん


「嘘だけど」とカメラに向かってびっくり目をする染谷将太が何だか良くて、観に行った。ラノベが原作らしい。そして原作ファンには大不評らしい。
凝り過ぎた設定や、鼻につく猟奇的事件やで、特に好きな要素はないはずなのに、「何これ凄いよかった!」とびっくりして映画館を出た。
でもどうしてよかったのか全く言葉にできず、怖くてもう一度観られないという…。主人公のモノローグにぽろぽろと涙が出たあの時の気持ちを思い出に…いやいや、失礼な、来年になったら再見しよう。



英国王のスピーチ


対してこれは今年もう何度も観た作品。いい悪いと言う以前に(いいのだが)、現在の自分に必要な作品だった。
人間、やりたいことと得意なことは違う。しかも得意なことを自分で得意と認識しているとは限らない。思ってもみなかった才能があることもあるし、苦手だと思っていたことに実は才能がある場合もある。
苦手なことをやらねばならない時に(今年はやたらそんな場面が多かった)、よくこの映画を思い出した。


英国王のスピーチ コレクターズ・エディション(2枚組) [DVD]

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『イリュージョニスト』


監督の前作(『ベルヴィル・ランデブー』)が好きだったし、原作はジャック・タチの幻の脚本!期待に違わぬ美しい、言葉少なで思い豊かなアニメーション。
フランスの古い映画で出会える「真の大人の軽やかさ」を久しぶりに味わった。
そして「ウサギにまつわるどきどき」は忘れられない…。


イリュージョニスト [DVD]

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『ミスターノーバディ』


タイトル・クレジットのハトだけでもうベストに入れる。
人間が死ななくなった未来の世界で、「死ぬ人間」最後の生き残りが主人公。彼の語る人生は、あちこち枝分かれした何人分もの物語が詰まっていて…という話で、映画の間中、楽しくて楽しくて仕方がなかった。人ひとりの人生に散らばる曲がり角、選択肢、可能性の無限の広がりを見せる映像の美しさと、物語の苦さったら!
物語の大事なキーワードになっている「ハトの迷信行動」は、「自分が行ったから負けた」とかつい思ってしまうサッカーファンには笑えませんな。


ミスター・ノーバディ [DVD]

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キッズ・オールライト


レズビアンカップルと二人の子供たち、そして子供たちの遺伝子上の父親の人間模様。
人のちょっとした心の動きが上手く描かれていて、俳優さんのやり取りを観ているだけで楽しかった。
同時期に『ブルーバレンタイン』を観て、すっかりやさぐれたので(あれもいい映画だけど!)余計にこの作品のキラキラは忘れられない。



『イグジットスルーザギフトショップ』


ストリート・アーティストとして有名なバンクシーのドキュメンタリー映画。
バンクシーの映画」の意味を誤解していて、途中で「ああ、こういうこと!」とびっくり。してやられました。
「芸術とは?」とか「"芸術"に群がる人々」についてニヤニヤしながら考えさせられた。
これで座席の周りが「酒気帯び男性集団」でなければもっと楽しめたのに!
あれだけ酒臭い人たちを入れるんならシネマライズもう行かない!と誓った作品でもある(大概こういった誓いは破られるけれど、そういえばこれ以来行ってないな)。


イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ [DVD]

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『ゴーストライター』


全く無駄のないサスペンス。ポランスキーの密室っぽさが好きで。異国、孤島、名前の出せない書き手などなどの閉塞感にわくわくした。現実のイギリス政治について、もっと知識があればまた別の楽しみ方も出来たんだけど!(そしてその後偶然、イギリスの政治とカルチャー史を学ぶことに)
原作を立ち読みしたら、ラストが違うのだ。なるほど!ああしたい気持ち分かる!


ゴーストライター [DVD]

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ウィンターズ・ボーン


行方不明になった父親を、過酷な状況下で探す少女の物語。よく『トゥルー・グリット』が引き合いに出されるけれど、こちらの神話的ですらある雰囲気が断然好き。
最初、物語中の独特の社会システムがよく分からずとまどった。この映画で初めてヒルビリーと呼ばれる人たちについて知ったという意味でも、意義深い作品。英会話のクラスで話したら、先生から『ビバリーヒルビリーズ』観てみなよ!と勧められましたとさ。


ウィンターズ・ボーン スペシャル・エディション [DVD]

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『わたしを離さないで』は原作の方が好きなこともあり、10には入らないのだけれど、原作者の「あの物語は子供時代のメタファー」という発言で、また違う楽しみ方が出来た。
作者にとっての「子供時代の終わり」はあれだけの喪失感と傷みを伴う物なのだろうか。
旧作では念願だった『サタンタンゴ』、『ナッシュビル』が観られたのが最大の収穫。『警察日記』、『拳銃野郎』、『わたしを深く埋めて』も良かったなぁ。
ワーストは『軽蔑』(高良健吾が出てる奴)。ツマらなそうな映画はそもそも観ないし、もういい年だからあまり地雷は踏まないけれど、これだけは時間の無駄だったと思う。

お休みに入ったので映画を観まくった 無言歌の巻

4本目:『無言歌


毛沢東時代の中国で、体制批判をしたと見なされた(実際に批判をした人もいれば、無実や陰謀で有罪になった場合もある)人が送られた再教育収容所を舞台にした話。
1956年に言論の自由が推奨され、人々の積極的な発言を促していたのが、翌年態度急変させて、これまで共産党批判した人を急遽粛正したんだそうな。恐ろしい。反体制派をあぶり出す大作戦だったんなら周到だけれどどうなのだろう(知識ゼロ)。
そして収容所に送られた人は、食料不足と過酷な労働で、大勢亡くなったんだそうだ。


収容所は全体的にもの凄く行き当たりばったり。
こんな荒野を耕したって畑になるまいよって場所を開墾させたり(しかも広大な土地をものっすごい少人数で)、亡くなる人が増えると「もう働かなくていいから寝てな」となったり、夜亡くなる人が多いもんで「夜は寝かせないで喋らせてろ」となったり、「もう人が死んでばっかりだから帰そう。代わりが来るし」となったり。
こんな適当な運営の「再教育」で、人々は苦しい生活にどんどん殺伐としてくる。食べられる物は、変な草でもネズミでも人の吐いた物でも死肉でも、何でも食べる。そして栄養が行き渡らず、容赦なく死んで行く。死んだら身ぐるみはがされる(最初はそんなことなかったんだが、後半どんどん酷くなる)。
知識層が多かったんだろうに、優秀な人材を何てもったいない!


偶然、国家の過去の罪、についての映画が続いてしまったけれど、中でもこの作品は一番「まだ続いていること」だ。時代は進んだけれど、中国ではまだ言いたいことは言えないし、知りたいことも自由には知れない。この映画は中国では上映できないだろう。
世界は変わりますように。いい方に変わりますように。