映画とどこかまで行こう

主に観た映画の感想を。新作・旧作、劇場・DVD鑑賞混じります。時々テレビドラマも。

2017年映画ベスト10

  1. パターソン
  2. 帝一の國
  3. 女神の見えざる手
  4. 夜明けの祈り
  5. ローサは密告された
  6. 網に囚われた男
  7. ドリーム
  8. お嬢さん
  9. T2 トレインスポッティング
  10. 十年

 

1. 不穏さを感じる人と幸福を感じる人とに分かれていて面白かった。私は後者なのだが、その幸福な「ありふれた日常」は、あの夫婦が今までの人生それぞれ色んなことを乗り越えてきた上でのことで、きっとあの日々を保つのに並々ならぬ努力をしているんだろうなと、ちょっとした行動や、置いていある写真や聞いている音楽、とっさの動きに妄想をかきたてられた。そういう意味では、不穏さの上に築いた幸福と言えるのかも知れない。

あの奥さんは一見不思議ちゃんなのだが、起きなくてもいい時間に毎朝起こされても、にっこりして「今日はこんな夢を見たの」と話しだすなんて、なんて偉いのだろうと感心した。そこも「苦労の末の平穏を大事にしている」と思った理由の一つなのだが)、でもそれは私が寝ぼすけだからなのだろうか?

 

2. 楽しんだという点では去年一番かも。映画館で複数回観てBDも購入。むしゃくしゃした時に観ると本当にスッキリする。ばかばかしく極端な世界を役者さんたちが全力で大真面目に演じていて実に実に素晴らしい。長い原作のまとめ方も見事。

イケメン勢ぞろいということで女性の観客が多かったのだが、内容は男子校の生徒会を舞台にした結構ガチな政治抗争。もっと男子5人ぐらいでわいわい観てほしいなぁと思いながら映画館にいた。

この映画で覚えた間宮祥太朗やら竹内涼真やら志尊淳やら、若手俳優さんたちがこの後続々と台頭。キャスティングの先見の明。

 

3. これも娯楽作。主人公のロビイストが戦うのが銃規制法に反対する一派…ということで一見社会派に見えるのだが、あくまでそれはネタ。がっちりしたスマートな脚本とキレッキレの演出でラストまでぶんぶん気持ちよく振り回されて、「面白かったー!」となったのが気持ちよかった。

『アイ・イン・ザ・スカイ』で虫型のスパイカメラが出てきて、電池が切れて肝心なところが…という場面があったのだが、本作では生身の虫を細工してスパイ用具に活用していて、本当かどうか全然分からないが虫にも油断ならない世の中だ。

 

4. 過去の実話を元にした作品。二次大戦中に兵士に乱暴されて身籠ってしまった修道女たちと、彼女たちを助けた女医の物語。残酷で哀しいことなのだが、絵画のように美しく静かな映像や、終わり方のまるで童話のような後味の良さには祈りが込められているようだった。

同じようなことは今でも世界中で起こっているし、宗教が人を助けることもあれば、正しい医療の妨げになることがあるのも、同じ宗教を信じていても解釈が人によって全然違い信者間でも考え方に溝ができてしまうのも、今も昔も変わらない。だからこそ今、作られた映画なんだろうと思う。

 

5. フィリピンでは麻薬があまりにも蔓延しており、大統領が麻薬撲滅のため、麻薬に関わった人は瞬殺でいいや、などと言い出している状況である…ということをニュースでちらっと知るわけだが、一体どういうことなのか感覚的によくわからず、映画を観る。これはスラム街のタバコ屋のおばちゃんが副業で麻薬を売って密告され、逮捕される話。

もちろんおばちゃんが麻薬を普通に売っているなんて、成程な状況なのだが、しかしまず警察側の腐敗ぶりが冗談みたいに凄くて(彼らには彼らの事情があるのだろうが)、逮捕したらまずお金も携帯もその他金目のものも没収。さらに高額の見逃し料を要求までしてきてまるでヤクザ。改善するならまずそこでしょ?となった。

その国に行ったとしても絶対に見られないような世界を覗き見るような作品。本作があんまり面白かったので、この後TIFFやフィルメックスでもフィリピンの作品を観て、2017年は私のフィリピン映画元年。

 

6. 北朝鮮の漁師さんがエンジントラブルで韓国側に流されてしまい、えらい目に遭う話。北朝鮮に対する韓国の目線というのも感覚的に分からなかったので、興味深く観た。本国ではどんな受け止められ方をしたのだろう。キム・ギドクの映画なのに比較的エンタメ寄りで分かりやすく、バランス良く作られていてまるで別人。それだけデリケートな題材なのかも知れない。

この後、船が流れ着いたり、国境越えようとして発砲される人がいたりといったことがあるたびにこの作品を思い出して生々しい恐怖を覚えるので、ちょうど観るべきタイミングだった気がする。

 

7. NASAで活躍した黒人女性たちの物語。黒人はトイレも交通機関の座席も、コーヒーポットすら別にされる時代が舞台で、もっと嫌なエピソードを覚悟していたのだが、「実際はもっと酷かったんだろうな」と想像させられつつそこまでどぎつい場面もなかったし、悪いことの後にいいことをちゃんと持ってくる匙加減が上手く、また女性たちのパートナーがみんな足を引っ張らないスマートな男性ばかりでさわやかだった。

主人公の女性たちはもちろん天賦の才があるのだが、それだけではなく、タイミングよく声をしっかり上げること、来るべき時を予測して準備すること、下調べをして戦略を立てておくこと、などなど、「えー天才でしょ?関係ないもんね」とならずに色々学べる点も多く。「よーし私も頑張るぞ!」と背筋をのばして映画館を出られる感じ。

また、差別って本当に効率の敵だね無駄無駄って実感させられた。なんだか正義感に満ち満ちて「差別は良くないことです」って叫ぶより、「だって時間の無駄でしょ?」で済ませた方が気持ちが良いなと。

 

8. これはずっと面白いとは聞いていて、パク・チャヌクは好きだし、期待に胸躍らせつつ公開を待っていたのだが、期待を上回る凄さだった。舞台は日本統治下時代の朝鮮半島。孤立したお屋敷に潜入した、実は裏組織から送り込まれたメイド。莫大な遺産の相続人である美しいお嬢様。遺産を狙い彼女を誘惑するおじ。秘めやかに行われる淫靡な朗読会。濃密になっていくメイドとお嬢様の関係。セットから世界観から作りに作りこまれた変態淫靡エロ映画。日本関連部分は日本人が観るとトンデモなのだが、それすらふっとばしてしまう熱量に酔いしれた。

亡くなった吉野朔美が好きそうだなと思って。ああ死んでしまったらその後に作られた映画は観られないんだな(それとも観放題かしら?)。

 

9. 続編製作の話を聞いた時はまさか!いらないでしょ!と思ったものの、実際に観てみたらとても良い続編だった。1作目のコピーは「未来を選べ。」だった。さあその未来とは? 突きつけられた。突きつけられたが、人生は美しいままでは終わらないし、それでもさらに先へ先へ続いていく。

前作と比較して街が、荒廃している所も新しくなったところもあって、あの時の若者たちのその後の人生みたいだったのも印象的。

 

10. 香港の10年後を描いた5本の短編によるオムニバス。ただよう絶望感に暗澹としつつ、最後の作品のラストに光も見る。そして、作った監督さんたちは無事なのだろうか、その後も自由に作品を撮り続けていられてるのだろうか、と心配になり、心配になったことにまた暗澹とする。とても勇気のある作品だったと思う。

この企画は日本でも是枝監督プロデュースで進行中で今年公開されるようなので、一体どの位このオリジナル版に匹敵できるのだろうかと、楽しみにしている。

 

話題になった中では、ノクターナル・アニマルズは年明けに鑑賞。ELLEやベイビー・ドライバーもこれから予定あり。トニ・エルドマンは観ていない。散歩する侵略者はスピンオフの予兆の方が好きだったので、ドラマベストをやるならそっちに入れるかな。