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映画とどこかまで行こう

主に観た映画の感想を。新作・旧作、劇場・DVD鑑賞混じります。時々テレビドラマも。

君が生きた証

映画

「学内の銃乱射事件で息子を亡くした父親が、息子の遺した音楽を作者を明かさず演奏するようになり人気を博すが、バンドの仲間に秘密がバレてしまい…」という話と認識して観た。予告編では、また心の傷を音楽で癒す系の話か…とちょっと食指が動かなかったのだけれど、とても評判が良いので腰を上げた。

 
『君が生きた証』予告編 - YouTube

 

結果、ほんとうにとても良かった。第一にとにかく楽曲が素晴らしい。だからすとんと物語や登場人物にはまれた(つまり、個人的には『ビッグ・アイズ』とは逆の状況だ)。気弱でいかにも人見知りな若者が、バーで演奏された楽曲に惹かれて主人公に声をかけて、どんなに邪険にされてもしつこく一緒に演奏しようと食い下がるのだが、楽曲が良いから、とてつもない勇気を振り絞れるんだなと納得できる(ステージ前に緊張のあまりトイレに篭城して吐き続けるようなキャラなんだから、どれだけの勇気だったか!)。久しぶりにこれサントラ欲しいなと思った。

息子は序盤ちょこっとしか出てこない。だから映画を観ている方には、どんな子だったのかさっぱり分からない。でもそれは父親の方も同じで、父親と観客は楽曲を通じて、彼はどういう人だったの?とあれこれ想像する。実は孤独だったのか、どんな悩みがあったのか、毎日何を考えていたのか。

人について深くあれこれ想いを巡らすというのは大事なことなんだろうと思う。他人への興味がわいて、人とのつながりができていく。

そんな父親を観ながら、どうして息子の作品だということを隠すんだろう?と、考えていた。遺族としてあれだけマスコミに追いかけられていたし、どうしてもセンセーショナルになってしまうからだろうか。息子の生きた証=遺された曲なのだから、あくまで楽曲の良さに注目してもらうことに重点を置いたのか。

自分の出した答えは、半分は合っていたと思うけれど、半分は全く見当違いだった。自分は結構勝手に物事の前提条件を狭めてるんだなぁ、と衝撃。

ここの所読む本やら映画で、ちっぽけな一人の人間が一生で出来ること、出来ないこと、歴史に名を残すこと、残せないことについて考えさせられることが多かったのだが、本作もそう。息子は歴史に名前を「残した」と言える。でも、歴史に残ったものが全てでもない。残らなかったものの方がいいものなことだってある。

彼は音楽で父親と若者を出会わせ、父親とその若者の人生をちょっとだけいい方向に変え、次の人生へのドアを開けた。それは歴史には残らない部分だけれど、ずっと素敵な事実だ。

この作品、時間の経過の表現も上手かった。

葬儀から帰って来た父親がぼろぼろの状態でレンジにピザを放り込み、さて、そのピザを取り出す場面かと思いきや、もう何日も経っているというところ。その間どんなに荒んだ様子だったかは、キッチンの様子や服装から分かる。そしてあの日からずっとレンジにピザを放り込んで暮らしている。

それからバンドが徐々に育って行く様子。お客さんがファンとなり、それが増えていって、だんだんライブも盛り上がるようになり、掛け合いの「お約束」なんかが出来て。それだけの期間、バンドは一緒にやっていて、その間主人公はバンドを楽しみつつ、色々と思い悩み苦しみ、バンドメンバーはそれぞれ夢を見ていた。

映画で描いていることは、生半可な時間では解決できないことだから、走らせるところは走らせ、そして大事な所で立ち止まる緩急が見事だった。