映画とどこかまで行こう

主に観た映画の感想を。新作・旧作、劇場・DVD鑑賞混じります。時々テレビドラマも。

東京国際映画祭で観た7本の記録(ネタバレ含む)

※データ、あらすじはTIFFのサイトより。

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スリー・オブ・アス
All Three of Us [ NOUS TROIS OU RIEN ]
102分 2015年 フランス 
監督/原案 : ケイロン
イラン南部の小さな村。大家族の中の大勢の兄弟のひとりとしてヒバットは産まれた。兄弟たちはみなそれぞれの道を歩むが、ヒバットは反政府運動に関心を持つようになる。弾圧的な政府により逮捕され、長期に渡り投獄されてしまうヒバットであるが、彼はそんなことでひるむ男ではなかった…。

 

監督のお父さんがモデル。亡命先でのカルチャーギャップを描くコメディかと思っていたら、本国での刑務所等のシーンがやたら長くて、まだ国を出ない…まだ出ない…という感じ。お父さんの精神の根っこを丁寧に描きたかったのだろうけど、間延びして感じる部分も。

でも政治犯として投獄され、そこでも反抗して独房に放り込まれたりといった重いエピソードもありながら、全体的にトーンは明るく、楽しく観られる作品だった。時々急に表現がウェス・アンダーソン風に。

イラン革命は、複数の映画で観た感じを総合すると、独裁者を倒さんと頑張って戦っていたら、なんかもっと凄いの召還しちゃった…という感じだったのかなぁという個人的な印象。

「刑務所でシャー(王)のお菓子を食べなかった英雄」がフランスに行くと、「え?シャー(猫)のお菓子を食べなかったの?何それ?」って誤解される。とある場所では命に関わる戦いだったものが、他の場所ではどうということもなくなる、この何とも言えない感じ(それと、たぶん革命後はお菓子の支給なんてなかったろうな)。

奥さんのお父さんのキャラが素晴らしく、ずっと見ていたかった。婿の手配書の似顔絵に一生懸命書き込みしたりするの。

 

錯乱
Frenzy [ Abluka ]
117分 2015年 トルコ=フランス=カタール
監督:エミン・アルペル
テロ事件が多発するイスタンブール。警察の高官ハムザは囚人のカディルを牢獄から出すよう命を下す。釈放と引き換えに、カディルはゴミ収拾の仕事を与えられ、テロ組織に結びつく爆弾の部品をゴミの中から探すことを命じられる。そんななかで偶然再会した弟のアフメットは野良犬を処分する仕事に就いていた。弟の言動に不審なものを感じたカディルは探索を始める…。

 

監督は、この物語を普遍的なものにしたかったため、敢えて場所や時代を特定しなかったとのこと。しかし、暗くて、日々どっかんどっかん爆弾テロがあり、軍用車ががんがん行き交い、人々は常に不安を抱え、怪我をした野犬を助けるのもはばかられる不穏な匿名世界は、「これSF?」とどうしても思ってしまう。家族モノや恋愛モノのように実感として「普遍的」とは自分には実感できなかったけれど、これに近い日常を送っている国の人もたくさんいるのだと、ちゃんと認識しなければとも思わされた。近い過去(や現在)に秘密警察の監視が厳しかったような国の人なんかも共感できるのかも。

兄はテロ捜査に熱を入れるあまり狂って行き、弟はつい助けてしまった野犬を匿っている不安から狂って行き、二つの狂気が交差したところで悲劇が生まれる話。

二人とも思い込みが激し過ぎるようにも見えるのだが、ああいう世界で生きるストレスは人の心を蝕むということなのだろうと思う。まだ自分には経験したことのない種類のストレスを想像しながら観た。

弟が助ける「野犬」は、テロリストのメタファーなのだと監督談。

 

ニーゼ
Nise - The Heart of Madness [ Nise - O Coração da Loucura ]
109分 2015年 ブラジル
監督/脚本 :ホベルト・ベリネール
ショック療法が正しいものとされ、暴れる患者を人間扱いしない精神病院に、女医のニーゼが着任する。芸術療法を含む画期的な改革案を導入するが、彼女の前に男性社会の厚い壁が立ちはだかるユングの理論を実践し、常識に挑む勇気を持った精神科医の苦闘をストレートに描く感動の実話。

 

あらすじ通りの物語をきっちり真面目に手堅く。

当時有効とされていた治療法に真っ向から反対する主人公の戦いは壁も多く、時にあまりに酷い邪魔のされ方に観ていて本当につらくなったのだが(特に犬好きには勧められない)、理解のある旦那さんと可愛い猫たちが、主人公にとっても観客にとっても最高の癒しだった。

電気ショック療法を観て『エンジェル・アット・マイ・テーブル』を思い出した。また観たいなあれ。 

 

ガールズ・ハウス
The Girl's House [ Khaneye Dokhtar ]
80分 2015年 イラン
監督:シャーラム・シャーホセイニ
結婚式を翌日に控えた女性が死んだ。直前まで新居のカーテンを変えていたらしい。友人たちが調べ始める。しかし女性の父親は非協力的で要領を得ない。一体何が起きたのか。本当に死んだのか? 謎解きドラマの形を借りつつ、伝統的なイスラム社会の影に踏み込む衝撃のドラマ。

 

イランの女の子たちのきゃっきゃした日常の様子が面白い。友達の結婚式に履いて行く靴を選ぶ様子とか(お店の人は聞いてもなかなか値段を言わない)、うきうき新居のインテリアを整える様子、大学風景とか(共学なのね)。「結婚式で出会いがあるかと思って張り切ってたら、男女別室でガッカリ!」なんていう台詞は、どこの世界も同じって部分と、習慣が違う部分が一度に入ってた。

サスペンスではなく、恐らく「社会の影」を描く作品なので、女性が死んだ理由は後半の彼女視点のパートで淡々と明かされたし、その習慣?常識?は衝撃だったけれど、進歩的な女性の足を引っ張るのは、結構同じ女性だったりするんだよな、それはどこの世界も一緒かも、とも少し思った(よく朝ドラで描かれる戦時中の狂信的な婦人会とか思い出した)(これはこれで"普遍的"だ)。

あの婚約者の感覚が一番想像がつかないのだが、どうしてあんな状況で死なせてしまった彼女の実家でゴハンとか食べられるんだろう。分かっていなかったのか。

そういえば本作で、イスラム教のお墓を初めて見た。凄くシンプルだった。そして、お金を払うと祈りを捧げてくれる人がその辺にいた。

 

ボディ
Body [ Cialo ]
90分 2015年 ポーランド
監督/脚本 :マウゴジャタ・シュモフスカ
オルガは自分の肉体を嫌っており、摂食障害を患っている。オルガの父は警察の仕事で毎日死体を見ており、もはや何も感じなくなっている。オルガは父を憎んでいる。父は酒に頼っている。セラピストのアンナは、オルガの治療にあたると共に、父のことも気にかける。そんなアンナは、実は肉体以上のものを信じていた。彼女は死者と交信ができるのだった…。

 

面白そうな色んな要素が上手く噛み合ず、自分はノれなかった。

映画の冒頭。水辺の木で首を吊ってる男性の周りに警察やら監察医やらが集まっていて、遺体を下ろし、さてこれからどうする?などとわやわやしているうちに、遺体がむくりと起き上がり、スタスタ歩き去った(その後、別にその生還者はストーリーには絡んでこなかった)。

後で父が娘をその場所に「仕事で来たけれど綺麗だったから」と連れて来るのだが、特にその男の話はなかった。「人が一度死んで蘇った場所」と観客は知っているから少ししみじみするのだが、娘にもそれを伝えても良かったのではとは思う。

亡くなった奥さんについての回想が、彼女がほぼ全裸で音楽に合わせて踊り狂っている様子で、しかもその音楽が♪ビキニ♪ビキニ♪ビキニDEATH!みたいな曲で、よりによって何故あれ。

セラピストが飼ってた犬が非常にかわいかった。

 

カランダールの雪
Cold of Kalandar [ Kalandar Soğuğu ]
139分 2015年 トルコ=ハンガリー
監督/脚本/編集 :ムスタファ・カラ
険しい山の上で、わずかな家畜と共に電気も水道もない暮らしを送る家族。一獲千金を夢見る父は、山に眠る鉱脈を探している。しかし、家族の目には無駄な努力にしか映らない。やがて、村で開かれる闘牛に希望を託し、なんと家畜の牛の特訓をはじめてしまう…。

 

俺は真面目に働くよりも夢を追いたいんだ!系の父親の行動はほんとうに無茶苦茶で、家族に苦労させるばかりで、奥さんや牛には心から同情するのだが、何しろ風景があまりに雄大で美しく、もう文句も何も言えなくなってしまう感じ。映画祭の大画面で、良い音(音がまた繊細で)で、鑑賞できて良かった。

下の息子に障害があって、母親は「医者に診せたい」と言っているのに父親は「いい祈祷師を頼みたい」と主張し、しかもだんだん「お母さんが祈祷師に見せたがってる」と、自分の意見を他人の意見であるかのように差し替え始めるの、あれ結構やる人いるよな(そう、環境や状況はあまりにも別世界なんだけど、でもこっちの方が普遍は感じるのね)。

しかしこのラスト、あまりにも夢を追う系のおっさんに都合が良過ぎて、いいのだろうかと思った。

この映画にも犬が出て来た。

こんなことしか書いていないけれど、これが今回の映画祭ベスト。

 

家族の映画
Family Film [ Rodinný film ]
95分 2015年 チェコ=ドイツ=スロベニア=フランス=スロバキア
監督:オルモ・オメルズ
冬休みを間近に控え、両親は一足先にヨット旅行に出かける。留守番の姉と弟は羽を伸ばして遊ぶが、やがて弟のサボりがバレ、事態は思わぬ方向に…。幸せな家族に訪れる変化を、意表を突く展開と端正な映像で描き、未体験のエンディングが観客の胸をしめつけること必至の驚きのドラマ。

 

あらすじを読んで、子供たちがハメを外し過ぎる話かと思っていたのだが、しかしそれだけではなかった。両親は海上で行方不明になるし、弟は難病が発覚し、犬はたった1匹で無人島に泳ぎ着きサバイバル生活を始め(この部分がやたら長くてドラマチック)、両親が生還したかと思ったら、弟への臓器移植がきっかけで父親と血液型が合わないことが判明し、弟の本当の父親は叔父だったとか、で、犬はどこ?とか、もう盛りだくさん過ぎて、あっけにとられた。最後まで引っ張った問題が、「さあ犬は生還できるのか?」。後で本作が「犬版キャストアウェイ」と呼ばれていたことを知った。

この作品で、子供たちが旅先の親とスカイプで映像つきで話す場面がたびたびあり、後日、他の国の映画でも似た様な場面に遭遇し、世界はそういう感じになっているのだなと思った。

無人島で頑張る犬のオットーにとにかくメロメロ。頑張れ!お願いだから助かって!と手に汗握った。映画祭スタッフはこの犬も日本に招きたかったって言っていたけれど、その気持ち分かる!

バラエティ豊かな上映作品を堪能(この節操のなさが逆に魅力なのかも)。それにしても妙に犬率が高かった。