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映画とどこかまで行こう

主に観た映画の感想を。新作・旧作、劇場・DVD鑑賞混じります。時々テレビドラマも。

恐くて面白かった『クーデター』のやや水っぽい感想

映画

Twitterでの評判が良く、「下手なホラー映画より恐い」等のコメントに興味を持って、全くノーマークだったクーデター』を観た

東南アジアの架空の国に、そこで新たな職を得たアメリカ人男性とその妻、小さな二人の娘たちが入国。しかしその直後に政変が起き、外国人狩りが始まってしまう。次々と襲って来る言葉の通じない異国の人々。一家は無事に逃げ延びることができるのか?というパニックムービー。主人公一家に、彼らと同時に入国した謎の男(ピアース・ブロスナン)が程よく絡む。

家族のあり方がとても良かった。必死に道を切り拓こうとする父親、恐怖にかられつつ頑張る母親、かわいい娘たち(緊迫した場面でも聞き分けが悪いことがあったり、咄嗟に危険な動きをしてしまったりする所も生々しい)、それぞれにどんどん愛着が湧いて来る。がんばれ!どうか助かって!

土地勘もなく言葉も通じず文字も読めない外国にいるという、精神的な密室。そこでひたすら怒りに満ちた人々が襲って来るという状況は、とにかく恐かった。ちょっとほっとするとまた次が来るという緩急の付け方が上手く、緊張の連続というのは、それはそれで良く出来た娯楽だなとしみじみ。そういうパニック映画の緊張感を存分に楽しみつつも、色んなことを考えさせられもして、楽しい映画体験だった。

自分が映画を観つつ考えていたことを追うために、話は全然違う方に飛ぶ。

何年か前に、『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』という水資源についてのドキュメンタリー映画を観た。地球の水資源は枯渇しつつある。今後ますます貴重になり、じきに石油の価値を凌駕する。しかも水は石油と違い、人間の生死を直接分けるものである。水をコントロールできる者が力を持つようになるし、その流れは既にじわじわと世界中で進行している…というような内容。

水源や水道事業を一般企業、特に外資になんて押さえられちゃったら首根っこをつかまれたも同然なのである。

その映画の記憶が頭の片隅にある中で、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を観たら、地球の成れの果てみたいな世界で、独裁者が水源を押さえることで民衆をコントロールし、水耕栽培をやっていた。「こんな風になるかも知れない未来世界」として、理屈に合っている!凄い!と思った。

で、話は『クーデター』に戻る。

映画の冒頭のシークエンス。高級レストランのような所で、その国の首相と外国人が水道事業か何かについて密談し、話の主役である水で乾杯している。上記の流れから、「水道インフラを外資に握られたら危ないんだよ!」と思う。

当然その国の一部の人もそう思ったらしく、その場で二人は殺され、国がひっくり返る。外資に国を支配されまいとする人々は、それを敵と見なし、襲う。主人公一家もそうとは知らずターゲットとなってしまう。

この作品、敵方の描き方が非常に難しかったと思うのだ。

いくら架空の国という設定にしてあっても、やみくもに外国人狩りをするアジア人を描けば、人種差別になってしまいかねない。そこで敵方が「海外企業の食い物にされている自分の国を取り戻す」という理念を実は持っている、という設定にしてある。主人公を特に執拗に狙うのも、水道事業を支配しようとしたアメリカの大企業の社員だからだ。

そういった理由付けがされていたし、「水道は外国企業に握らせてはダメ!」という認識が既に自分の中であったので、「ありえなくもない世界」として余計に怖がれた。日本企業だっていつどこで怒りを買うか分からない(もちろん同じアジアでも、想定エリアに近い国々とは考え方や捉え方がまた違う訳で、この作品に対する印象については一概には言えない:具体例後述)。

それにしても、現代のフィクションの中で外資が抑えようとするのが、油田でも鉱山でもなく水道なあたり、やはり世界はその方向に進んでいるのかな。

ああいった政変が実際にどこかの国で起こったら、細かい状況も分からないだろうし、ニュース映像を適当に見ながら「革命だ!かっこいい!」「脱・欧米!」と、結構興奮して歓迎する人も多そうだな、とか、暴動はともかく、水道インフラが外資ってアジアに限らずアフリカなんかで起こりそうな気もするし、もしくは自国企業が握って、その会社が外資に買収されるのも可能性あるな、民営化って恐いよな、などと考えたり。

劇中、「アメリカ大使館を目指そう!」となってからは、果たして無事に着けるのか?大使館自体は無事なのか?にドキドキしつつ、『アルゴ』も思い出した。実話を元にしたあの映画では、イラン革命でアメリカ=敵とみなされ、アメリカ大使館が襲われて職員が逃げ惑っていた。特に明確に敵視されている国の大使館は、ああいう状況では機能しなくなる可能性も高い。一番関係なさそうな国の大使館を目指す方が正解なのかも知れないけど、どこが一番上手く立ち回ってくれるのだろう、などなど一家の行方を見守りつつ考えたり。

原題はNo Escape。ロケ地はタイ(設定はどこか別の国)。

なるべくタイっぽくしないように気をつけて、ロケの許可を得たのだろうけれど、しかし警官隊のシールドについてる文字は逆さまにしたクメール文字だそうで(文化に対して相当失礼だよな)、カンボジア風の衣装も多く使用されており、おかげでカンボジアでは上映禁止って記事も見かけた(現在の状況は不明)。文字は作っちゃう位のこだわりが欲しかったな。

事前に予告編は観ていなかった。動画をココに貼ろうと思ったのだが、今になって観てみると、あの場面もこの場面も予備知識なくドキドキできて良かった、という箇所が多かったので止める。

大雨の日に観たし、つくづく水と縁の深い映画だった。

 

<雑記>

*隣国がベトナムだという設定だったけれど、仮想国を勘ぐられないように、あれも名前を出さない方が良かったのでは?

*「ゾンビ映画っぽい」という感想もみかけていた。しかしゾンビ映画って「人っぽいんだけれどゾンビだから殺してもあまり罪悪感がない」という所が良くも悪くもあるように思うのだが(ゾンビが知り合いの成れの果てだとまた違うが)、これについてはそういうことは一切なかったので、個人的には「ゾンビホラー」とは別モノ。暴力や「手を下す」という行為、死はいっこいっこかなり重かった。
*そうだ、図書館も民営化は危険だよね!