映画とどこかまで行こう

主に観た映画の感想を。新作・旧作、劇場・DVD鑑賞混じります。時々テレビドラマも。

フレンチアルプスで起きたことと起きなかったこと

『フレンチアルプスで起きたこと』を観た。

"カップルで観ると非常に気まずくなる映画"と銘打っており、映画館ではそれでも敢えて観る勇気あるカップル向けに「カップルチャレンジ割引」まで提供していたりする。

前情報として得ていたあらすじはこう。

とあるスキーリゾートホテルに滞在中の家族が主人公。バカンスを楽しんでいる最中に雪崩が発生。子供たちを守ろうとした母親とは裏腹に、父親は現場から一人で逃走。結果、非常に気まずいことになる。

そりゃあカップルで観たら議論になるだろう。観終わった後に、「あなただったらどうする?」とか「お前の方が逃げるんじゃ?」とかさ。

で、実際に観てみたら、何となく予想していた気まずさとはまた違った。

一応、コメディ仕立てで大げさなのだ。音楽がやたらものものしく、例えば単にスキー靴の棚をじーっと映す場面すら不穏な音が流れ、人工雪崩を起こす爆発音も怪しく、単に雪上車が走ってるだけでも妙に不気味で、何かとてつもなく恐ろしいことが起こりそうで不安がかきたてられる。雪に閉ざされたリゾートホテルは、そこはかとなくシャイニング的だし(そういえばホテルのスタッフの男性も不気味で、オノ持って襲ってきそうだった)。

もちろんホラーもスプラッタももちろんない。しかし、もうちょっと、ドラマチックな展開を予想していた。離婚だわ!って方向に揉めたり、ヤケクソになって浮気しちゃったり、子供たちがめっちゃ反発したり、誰かが怒って行方不明になったり。でも映画が描いたのは、もっと中途半端でもっと生々しい展開だった。あの雰囲気にそれが乗っかっているから、テイストが独特で面白いのだが。

災害時に父親が自分だけ逃げちゃったっていうのは、前情報通り。奥さんはそれに非常にショックを受け、旦那さんにそれとなく指摘する。しかし旦那さん、覚えていないのだ。シラを切っているのではなく、「自分はそんなことする訳ない」と思い込んじゃっている。余計に不安と不信感を募らせる奥さん。子供たちは不穏な空気を察し、「パパママが離婚しちゃったらどうしよう!」と不安定になる。パパは結局、携帯に写っていた動画で自分の行動の証拠を見せつけられ、自分でももの凄くがっかりして、自信をすっかり失い、精神的に大混乱に陥る。

ああ、これは単なるカップルの映画なのではなく、「家族」の映画なんだなぁ、と思った。

お互いに今まで、それなりにいいパパママだったのだろう。

パパは仕事人間だけれど、しっかり家族を海外のリゾートホテルに連れてこられる位の財力を築いているし、子供たちも懐いている。

ママはママで、結婚して子供を育て、きちんと「母親」をやることにプライドを持っている様子(対照的にアバンチュールを楽しんでいる、同じホテルの女性への態度からも分かる)。

そして二人のかわいい子供たちがいて。ひとつの過ちですぐ「別れましょう!」なんて出来ない。でも。

ホテルの中でもやもやして、泣いて、ちょっと別行動してみたり、八つ当たりしたり、他のカップルに愚痴って、そのカップルにも不穏な空気を残したり、延々とぐるぐるする。そして。

それにしても、母は強く、子はかすがい。(あれ?父親は?)

自分はシングルなので、元々は他人である夫婦が「家族」になるっていうのは、こういうことなんだろうなと妙にしみじみした。お互いに嫌な所や、びっくりするほど認められない所があっても。でも即「無理!」と断罪しないで、何とか妥協点を探そうと頑張るものなのだ。時には相手を導いたりもして。たぶんみんなそうしているのだ。

うーん、自分にはできるかな?と不安になったりもしたけれど…。

カップルでも、「恋人同士」はともかく、夫婦は「あー、自分らもたまに相手にもやっとするけど、でも家族だもんねー」と、絆を新たにできそうな気がする。ご夫婦にオススメ。

 


7月4日(土)公開『フレンチアルプスで起きたこと』予告編 - YouTube

 

  • 何でスウェーデンからわざわざフランスに行ってスキーするんだろう?ってちょっと思ったけれど、ウィンタースポーツが盛んな国だからこそ、雪質等にこだわるのかな(そういえばノルウェー行った時に「白馬の雪質は最高らしいね!」って言われたしな)。
  • 子供がもうちょっと「パパ守ってくれなかった!情けない!」って反発するのかと思っていたのだが、両親離婚危機への不安が先に立つものなんだなぁ、と。これは子供の年齢によっても違うかも。ティーンエイジャーだったらどうだったかな。
  • ラストで出て来たヘアピンカーブの道が、行ったばかりのインドで通った道と似ていて(舗装してなくてガードもないもっと酷い道だったけど)、生々しい恐怖を味わった。
  • 自分の解釈では、最後の滑りの場面は奥さんの優しさ。