映画とどこかまで行こう

主に観た映画の感想を。新作・旧作、劇場・DVD鑑賞混じります。時々テレビドラマも。

『サイの季節』を観た

イラン革命時に不当に逮捕され、拷問を受け、30年近く投獄された詩人の物語。釈放後、彼は行方が分からなくなった妻を探すが…という粗筋だけで、もう切ない展開になるのは目に見えている。

二人の間に影を落とし続けるのが、かつて妻の実家で雇われていた運転手。彼女を想い、諦められない気持ち故に、人知れずいくつかの恐ろしい行動に出ていた。

革命は、色んな物を急にひっくり返す。かつて上に立っていた者が犯罪者扱いになり、使用人だったものが力を持ち、国を動かす立場になったりする。そして、その行動の原動力が、表向きは革命的精神や美しい理念であったとしても、実は以前から抱いていた劣等感や、ねたみや、横恋慕だったりするのは、恐ろしいことだが、たぶんよくあることなのだろう。そして、それは目には見え辛い(そもそも溜まったフラストレーションの爆発が革命を起こすとも言えるのだが)。

映画では、革命前の方が社会が自由な雰囲気で(女性もヘジャブをかぶっていなかったし)、革命後は(主人公が拷問される訳だから当然といえば当然だが)、暗く閉鎖的かつ宗教的な戒律が厳しい感じがして、たぶん、これはあの革命に対する一つの見方なのだろうと思った。

やりきれない物語ではあるが、映画はとても美しかった。登場人物は多くを語らない。けれど、その後ろにあるいっぱいの想いを代弁するように朗読される詩は美しいし、何度もはっと目を見張った映像も詩のようだった。

でも個人的に尾を引いたのは、革命の後ろで、人のマイナスの感情が他人の人生をずたずたにしてしまう恐さ。取り返せない重荷を背負って、でも満足だったろうか、あの元運転手は。

 


『サイの季節』予告編 - YouTube

 

劇中、男性3人が並んで「ヒルで悪い血を吸い出す」という療法を受けつつ相談事をしている場面があったが、あれは効くのだろうか…(ヒルがパンパンになると、新しいのと取り替えていた)。