映画とどこかまで行こう

主に観た映画の感想を。新作・旧作、劇場・DVD鑑賞混じります。時々テレビドラマも。

ノーザンライツ2013まとめ その2

  • 『密書』


1914年のサイレント映画。柳下美恵さんのピアノ伴奏付き。
(たぶん)生演奏付きサイレント映画鑑賞は初めて。素晴らしかった…。
セットも映像も美しく、特に風車の下の人影や、窓辺で着替える男の子のシルエットは忘れ難い。

密書に関して無実の罪を着せられた男性を、その妻子が救おうとする話。ヒラヒラの格好の美女が、銃弾爆弾飛び交う戦場と化した野原に夫を救う手がかりを得るべく突入していったり、小さな子供が刑務所に潜入したり、あり得ない頑張りを見せる。後半は「すんでの所で!」の連続で雪だるま式にドキドキ。


何故夫が無実の罪をかぶるハメになったかというと、妻が間男を迎え入れていた事実(誤解なのだが)を明かすよりもマシだと思ったからである。
「男として恥」なのか「一族の恥」なのか(後者かなこの時代?)、など、当時の名誉意識について考えながら観た。
その時代やその国の恥や名誉の意識というのは興味深い。日本であっても例えば能で、戦場で負傷し、弱った身体で下級の者の手にかかる恥を受ける位なら、と自死する話があるけれど、その価値観も今まっすぐに共感は出来ない。
今の価値観で観れば「他に選択肢があるのに!」と思うが、きっと当時の人なら「それなら仕方がない!」と涙ぼろぼろ共感して観た筈だ。その、自分の中にはない「共感する気持ち」を妄想するのが楽しかったりする。


終映後、柳下さんのトークショーあり。
柳下さんは(もちろん)映画自体にも詳しくて、話がとても面白かった。
演奏は基本的に即興で、素材をあらかじめ観ずに、その場で画面を観ながら展開を探り探り弾くことも多いとのこと。演奏者と映画とのセッションなんですね。(それを知りつつまた味わいたいので、別の機会を近いうちに持ちたい…。)
本作で、息子が刑務所に忍び込む場面は、今の映像では昼間に見えてしまって不自然だけれど、製作当時はフィルムに青で着色がしてあり、夜に見えた筈らしい。昔は夜間の撮影が出来なかったので、昼間撮って、フィルムの方を加工したそう。ただ、ネガにはそれは残らないので、当時上映されたそのままの状態というのはなかなか再現できないらしい。
青い着色ってどんな?当時の夜の表現って本来どんな風に見えたもんなんだろう?と、また新たに観てみたいものが…。
映画鑑賞の興味は芋づる式。きっといずれ。