同時期にやはり楽しみにしていた『凶悪』が公開で、そちらのリリーさんが世にも恐ろしい悪役だということなので、怖いイメージがつく前にと、こちらの「いいリリーさん」を先に鑑賞することにした。
ストーリーは「赤ちゃん取り違え事件」がベース。片方の家族は、裕福だけれど父親が家庭を顧みない。もう片方は、貧乏だけれど温かい家庭を築いている。前者の育てっ子は内に秘めたところのある静かなタイプで、後者は賑やかでやんちゃ。さあどうするのが幸せ?正しい?…と、図式的にはものすごーく型にはまっていて、粗筋だけ聞いたら鼻につきそうですらある(でもそういう土台があるから、海外の人にも分かり易いのかな)。
しかし実際に映画を観てみるとそれぞれのキャラクターがやたらと生々しく、誰もが本当にいそうな感じ。冷たい父親にも色んなトラウマや迷いがあり、「温かい家庭」側も完璧に善良な夫婦ではなく下衆でヤンキーな所があったりし(つまり真っ白いリリーさんではなかった…)、どっちがいいとか悪いとか、白黒つけられなくなる。
基本的には主人公は冷たい父親役の福山雅治で、彼が事件をきっかけに「父親とは?」を見直し、時に相手方の親にライバル心を燃やしてムキになったりもして、ようやく「父」のスタートラインにつくまでの成長物語。
彼は取り違えが発覚して初めて、ちゃんと子供を見る(今までは理想を押し付けるばかりで、子供の表情など見やしなかった)。実の息子に自分と似た所はあるだろうかとじーっと眺め、育て子が実の父親といる所の表情を眺め、はてあの子は自分といる時にどんな顔をしていたかしら?と家でも眺める。今まで気づかなかった細かいことがたくさん見えて来る。その視線につられ、こちらもそれぞれのキャラクターの小さな癖や、言葉や、仕草に敏感になり、やたらと色んなことを想像させられ、さらに自分自身の経験も蘇り、どんどん全員が好きになってしまう。一体結末がどうなっちゃうのか、下手なサスペンス映画よりもどきどきし、彼ら全員の幸せを心から祈った。
タイプの違う二人の父親像が際立つけれど、私は同性である母親の方にも共感してしまい、「どうしてお腹の中で10か月育んでいたのに、お腹を痛めて産んだのに、全く気づかなかったのだろう?」という罪悪感と絶望感を想像して胸が潰れそうになったり、しょんぼりした子供を抱きしめた時、おずおず子供が背中に手を回してきたことに、どんなに胸がきゅっとなったろうと切なくなったりしながら、それぞれきちんと描かれた母親像に監督の観察眼を見た気もした。
(↓この「特報」位が情報量としては丁度いい)
序盤、2組の親子が対面し、福山が実の息子をじーっと観察している場面で、リリーさんとその育て子が、二人ともストローをくちゃくちゃ噛んでしまっている…という箇所があった。遺伝で似ることもあれど、生活を共有する中で似て来るってことも本当にたくさんある、ということがその後も出て来る。ウィンク、口調、お箸の持ち方、まめ知識…。あの二組の家族が、映画が終わった後も、何気ないけどかけがえのない日々を積み重ね、子供たちはそこからどんどん色んなこと(しょうもないものも含)を吸収して、心豊かに幸せでいてくれたらいいなと思う。
出演者全員が素晴らしかったけれど、特に主人公の育ての息子役を演じた慶多くんの黒目の綺麗さ!黙っているけれども心の中に色んな思いがある(ように見える)雄弁な黒目は忘れ難い…。
以下、まとまらない雑感
- 上映前にカンヌ映画祭での様子が流れたが、不要では
- リリーさんが変な関西弁だったのは、関西出身の子役に合わせたのかしら?
- 女優さんは役を入れ替えてもハマったと思うけれど、何故あの配役にしたのか聞いてみたい…
- 一カ所、読み辛い所があった。福山がソファのクッションの間から、子供が作った花の残骸を見つける場面。茎の部分だけが残っていて、花はどうしても見つからない。で、後で子供に謝っていた。 間に(自分は当時その花に興味がなく、ぞんざいに扱った→花の残骸を見つけたのは子供かも知れない→でも何も言わなかったのかも→傷ついただろうな、悪かったな)…という心理が働いたことが読めなくて、後でもやっとしてノベライズを見て確認した次第。映画読解力、まだまだ。
- こちらにピエール瀧まで(一瞬だけれど)出ているとは気づかず、映った瞬間ガタッとなった