映画とどこかまで行こう

主に観た映画の感想を。新作・旧作、劇場・DVD鑑賞混じります。時々テレビドラマも。

舞台『ウーマン・イン・ブラック』を観た

今まであまりしてこなかった観劇に挑戦中。先日、佐々木蔵之介の『マクベス』を観た時にチケットを売っていて、あ、英国ホラー!少人数キャスト!と、ふらっと買ってみたもの(少人数の会話劇みたいな方が、派手な舞台より好きみたい)。

去年の『皆既食』がとても良かったので、舞台の岡田将生くんもまた観てみたいし。

 

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 全く演劇には詳しくなく、これがずっと何年も、同じベテラン俳優さんがその時々の若手とともに演じて来た作品で、今回はその俳優さん(斎藤晴彦さん)が亡くなって以来の、久しぶりの再演だということは全く知らなかった。

勝村さんはどれだけプレッシャーだったことだろう。本当にベテラン俳優の腕の見せ所満載なのだ。二人芝居。老弁護士が、自分の恐怖体験を家族に語ろうと心に決め、それをどう話そうかと、若手の俳優と予行練習する…という物語で、劇中劇仕立てで幽霊譚が語られていく。若き日の弁護士役を若手俳優に任せ、老弁護士はそれ以外の役を全て演じなければいけない。

観ている方は、くるくる変わる勝村さんに圧倒される。体つきから話し方までまるで別人!(英語だったら地方訛りとか使い分けるのかなー)ちょっとコミカルで笑いどころの多い前半から、じわじわと恐怖が増して行く後半までぐいぐい持って行かれた。話して行くうちに徐々に自信をつける、老弁護士自身の変化も面白い。

岡田くんは姿が本当に舞台映えするし、英国ふうの衣装も似合い、声もよく出ていた(ちょっと勝村さんに対して、素で笑っちゃってた所があった気もするけど)。前半の、「語りのアドバイザー」としての自信家っぷりから、後半の恐怖に震える様子まで、凄く役に合っていた印象。

この人は持って生まれたものを実に上手く使っているなーと思う。「ただのイケメン」で終わらない覚悟みたいのを感じるし(『悪人』の軽薄な役は凄く良かったし、こういう役も選ぶんだなと思った)、選んだ仕事ひとつひとつで、周りからいい影響を受け取っていそう。『リーガルハイ2』で堺雅人さんと仕事したのも凄くプラスになったのでは。去年も舞台を観たのもあって、気になる俳優さんになってきた。

さて、舞台自体は、既に練りに練られている熟した作品な訳で、本当に良く出来ていた。ホラーといっても、舞台で観てそんなに恐いものかしら?と思っていたけれど、前半の2人の楽しい掛け合いでするりと物語に入り込めたので、あとは登場人物と一緒に右往左往。後半は本当にきっちり恐いし(効果音にびっくりするというだけではない)、しかも余韻がさらに恐ろしい(一体あの後、どうなるのだろう…!)。恐ろしいので場内も静まり返るし、その静けさと息づかいも恐い。大勢いるからなおさら恐いという効果もあるのだと分かった。

セットも、省く所は省き、藤製の長持ちが時にはベッド、時には御者台になったりという舞台ならではのマジックもありつつ、ステージの奥行きは存分に使って、開かずの部屋の中や、階段が急に登場したりする。空間の自由な使い方が舞台の面白さの一つなのだなぁと、舞台慣れしていない身としてはわくわくした。それから、目には見えないけれど確実にそこにいる小さな犬ちゃん…!!!

まだまだ面白い舞台はあるのだろうし、これからも挑戦してみよう!と思わされた作品だった。

この演目は今後は勝村さん+若手で行くのかしら?それともキャストは入れ替えて行くのかな。色んな俳優さんで観てみたい気もするし、勝村さんでここから役柄が育って行くのを観たい気もするし、観る側としてはとっても悩ましい。

 

館の周りの風景が実際にはどんな風か、映画版も観てみたくなったけれど、でもまたあの余韻を味わうのは恐いなぁ。。。

 

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フレンチアルプスで起きたことと起きなかったこと

『フレンチアルプスで起きたこと』を観た。

"カップルで観ると非常に気まずくなる映画"と銘打っており、映画館ではそれでも敢えて観る勇気あるカップル向けに「カップルチャレンジ割引」まで提供していたりする。

前情報として得ていたあらすじはこう。

とあるスキーリゾートホテルに滞在中の家族が主人公。バカンスを楽しんでいる最中に雪崩が発生。子供たちを守ろうとした母親とは裏腹に、父親は現場から一人で逃走。結果、非常に気まずいことになる。

そりゃあカップルで観たら議論になるだろう。観終わった後に、「あなただったらどうする?」とか「お前の方が逃げるんじゃ?」とかさ。

で、実際に観てみたら、何となく予想していた気まずさとはまた違った。

一応、コメディ仕立てで大げさなのだ。音楽がやたらものものしく、例えば単にスキー靴の棚をじーっと映す場面すら不穏な音が流れ、人工雪崩を起こす爆発音も怪しく、単に雪上車が走ってるだけでも妙に不気味で、何かとてつもなく恐ろしいことが起こりそうで不安がかきたてられる。雪に閉ざされたリゾートホテルは、そこはかとなくシャイニング的だし(そういえばホテルのスタッフの男性も不気味で、オノ持って襲ってきそうだった)。

もちろんホラーもスプラッタももちろんない。しかし、もうちょっと、ドラマチックな展開を予想していた。離婚だわ!って方向に揉めたり、ヤケクソになって浮気しちゃったり、子供たちがめっちゃ反発したり、誰かが怒って行方不明になったり。でも映画が描いたのは、もっと中途半端でもっと生々しい展開だった。あの雰囲気にそれが乗っかっているから、テイストが独特で面白いのだが。

災害時に父親が自分だけ逃げちゃったっていうのは、前情報通り。奥さんはそれに非常にショックを受け、旦那さんにそれとなく指摘する。しかし旦那さん、覚えていないのだ。シラを切っているのではなく、「自分はそんなことする訳ない」と思い込んじゃっている。余計に不安と不信感を募らせる奥さん。子供たちは不穏な空気を察し、「パパママが離婚しちゃったらどうしよう!」と不安定になる。パパは結局、携帯に写っていた動画で自分の行動の証拠を見せつけられ、自分でももの凄くがっかりして、自信をすっかり失い、精神的に大混乱に陥る。

ああ、これは単なるカップルの映画なのではなく、「家族」の映画なんだなぁ、と思った。

お互いに今まで、それなりにいいパパママだったのだろう。

パパは仕事人間だけれど、しっかり家族を海外のリゾートホテルに連れてこられる位の財力を築いているし、子供たちも懐いている。

ママはママで、結婚して子供を育て、きちんと「母親」をやることにプライドを持っている様子(対照的にアバンチュールを楽しんでいる、同じホテルの女性への態度からも分かる)。

そして二人のかわいい子供たちがいて。ひとつの過ちですぐ「別れましょう!」なんて出来ない。でも。

ホテルの中でもやもやして、泣いて、ちょっと別行動してみたり、八つ当たりしたり、他のカップルに愚痴って、そのカップルにも不穏な空気を残したり、延々とぐるぐるする。そして。

それにしても、母は強く、子はかすがい。(あれ?父親は?)

自分はシングルなので、元々は他人である夫婦が「家族」になるっていうのは、こういうことなんだろうなと妙にしみじみした。お互いに嫌な所や、びっくりするほど認められない所があっても。でも即「無理!」と断罪しないで、何とか妥協点を探そうと頑張るものなのだ。時には相手を導いたりもして。たぶんみんなそうしているのだ。

うーん、自分にはできるかな?と不安になったりもしたけれど…。

カップルでも、「恋人同士」はともかく、夫婦は「あー、自分らもたまに相手にもやっとするけど、でも家族だもんねー」と、絆を新たにできそうな気がする。ご夫婦にオススメ。

 


7月4日(土)公開『フレンチアルプスで起きたこと』予告編 - YouTube

 

  • 何でスウェーデンからわざわざフランスに行ってスキーするんだろう?ってちょっと思ったけれど、ウィンタースポーツが盛んな国だからこそ、雪質等にこだわるのかな(そういえばノルウェー行った時に「白馬の雪質は最高らしいね!」って言われたしな)。
  • 子供がもうちょっと「パパ守ってくれなかった!情けない!」って反発するのかと思っていたのだが、両親離婚危機への不安が先に立つものなんだなぁ、と。これは子供の年齢によっても違うかも。ティーンエイジャーだったらどうだったかな。
  • ラストで出て来たヘアピンカーブの道が、行ったばかりのインドで通った道と似ていて(舗装してなくてガードもないもっと酷い道だったけど)、生々しい恐怖を味わった。
  • 自分の解釈では、最後の滑りの場面は奥さんの優しさ。

『人生スイッチ』を観たよ

アルゼンチンでアナ雪を超える大ヒット、歴代興収新記録、製作がアルモドバル、驚愕と爆笑の渦に襲われる…とのことで、なんか凄そうなので予告編も観ずに出かけた。

始まってみたらオムニバスだった。愉快な小話集ですかね、なるほど。

各ストーリーとコメントは以下の通り。

 

1. おかえし

とある男を知っている人ばかりが飛行機に乗り合わせる話。

多分何もなかったらもっと笑えてた。この映画の現地公開は2014年8月。実際の事件は2015年。現実は恐い。

 

2. おもてなし

レストランで接客した相手が、憎き父親の敵だったという話。

何故キミがそこまで!という展開に、あーこれ全体的にニヤリ系じゃなくて過剰な感じなんだろうなと思い始める。

 

3. エンスト

新車で山の中の道を運転中、トロくさい上にウザい車を追い越し際に悪態をついたのが運の尽きな話。

アルゼンチン版『走る取的』(筒井康隆)だね!と思う。もちろんアルゼンチン版なのでアクションもリアクションもクドい。これで、やっぱり過剰さに覚悟しないと、と確信する。

 

4. ヒーローになるために

駐禁レッカー移動と戦うあまり、仕事はクビになるわ離婚は言い渡されるわの男の話。

これは同じ様な怒りを胸に秘めたアルゼンチン国民の声を代弁しているのかしら。自分の目には戦い方がやり過ぎだと思うけれど、現地では「そうそうそうそう!」「がんばれ!」って皆思うのかも。

で、全体的に庶民視点の作品なのかなー…と思いつつ次へ。

 

5. 愚息

金持ちのバカ息子が轢き逃げ死亡事件を起こし、親が揉み消そうと画策する話。

大金を積んで検察と取引まで始めたので、庶民視点ならこのムカつく金持ちがコテンパンにされるはず!早く!ざまぁ!と期待して観ていたら、なにこれどういうこと!な終わり方にびっくり。
後味いまいち。庶民の味方って訳でもないわけですね。

 

6. Happy Wedding

結婚式の最中に花婿の浮気相手を来賓の中に発見し、花嫁が怒り狂う話。

花嫁がやることなすことちょっと長くておなかいっぱい。でもアルゼンチンの結婚式ってこういうのなんだ!というのが眺められていて、海外の冠婚葬祭好きとしては満足。

関係ないけど花嫁役の女優さんのにきび(?)が気になってしまった。

 


映画「人生スイッチ」 予告編 - YouTube

 

クドいなー、こういのが好きなのか、アルゼンチンの人って…と思ったものの、英語タイトルがWild Talesで、スペイン語の原題Relatos salvajesも自動翻訳するとそのような意味らしいので、あちら的にも荒々しい話なんでしょうかね。

『サイの季節』を観た

イラン革命時に不当に逮捕され、拷問を受け、30年近く投獄された詩人の物語。釈放後、彼は行方が分からなくなった妻を探すが…という粗筋だけで、もう切ない展開になるのは目に見えている。

二人の間に影を落とし続けるのが、かつて妻の実家で雇われていた運転手。彼女を想い、諦められない気持ち故に、人知れずいくつかの恐ろしい行動に出ていた。

革命は、色んな物を急にひっくり返す。かつて上に立っていた者が犯罪者扱いになり、使用人だったものが力を持ち、国を動かす立場になったりする。そして、その行動の原動力が、表向きは革命的精神や美しい理念であったとしても、実は以前から抱いていた劣等感や、ねたみや、横恋慕だったりするのは、恐ろしいことだが、たぶんよくあることなのだろう。そして、それは目には見え辛い(そもそも溜まったフラストレーションの爆発が革命を起こすとも言えるのだが)。

映画では、革命前の方が社会が自由な雰囲気で(女性もヘジャブをかぶっていなかったし)、革命後は(主人公が拷問される訳だから当然といえば当然だが)、暗く閉鎖的かつ宗教的な戒律が厳しい感じがして、たぶん、これはあの革命に対する一つの見方なのだろうと思った。

やりきれない物語ではあるが、映画はとても美しかった。登場人物は多くを語らない。けれど、その後ろにあるいっぱいの想いを代弁するように朗読される詩は美しいし、何度もはっと目を見張った映像も詩のようだった。

でも個人的に尾を引いたのは、革命の後ろで、人のマイナスの感情が他人の人生をずたずたにしてしまう恐さ。取り返せない重荷を背負って、でも満足だったろうか、あの元運転手は。

 


『サイの季節』予告編 - YouTube

 

劇中、男性3人が並んで「ヒルで悪い血を吸い出す」という療法を受けつつ相談事をしている場面があったが、あれは効くのだろうか…(ヒルがパンパンになると、新しいのと取り替えていた)。

昼ドラを観た

窪田正孝くんの演技がいい」と評判だったので、Xmasの奇蹟』っていう2009年の昼ドラをぽつぽつ観ていて、ようやく観終わった。 

Xmasの奇蹟 DVD-BOX

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 「クリスマスの夜に事故死した恋人の魂が、たまたま同じ病院に入院していて意識不明だった見知らぬ大学生の中に蘇る」というストーリーで、窪田くんはその不運な大学生の役だ。「見た目は二十歳の大学生だが中身は30代のおっさん」というのが演じどころ。

それにしても、要らないトラブルやら心変わりの多いドラマだった(昼ドラはみんなそうか?)。せっかく死んだ恋人が蘇ったというのに、その奇蹟を有り難く享受はしないのである。思い悩むのも分かるが、主人公2人が「こうするのが相手のため」と言ってみたり、「人間としてこうするべき」と言ってみたり、色んな心の移り変わりを全て表面化させ、ころころ態度を変え、相手ばかりか周りの人間全てをぶんぶん振り回し続ける(そしてしまいには、もっと愛してるって言えば良かった、抱きしめれば良かったなどとオンオン泣くのである)。

一番気の毒だったのは大学生の母親やカノジョ、友人で、すっかり別人になってしまった彼におろおろし、心配したり理解しようと努力したり必死なのだが、当の本人は今まで知らなかった筈の年上の女性にあからさまに執心し、勝手な行動をしまくるばかり。

母親は母子家庭で必死で育ててきた息子を奪われた形になり、心配のあまり色々と口を出したり直談判に行ったりするのだが(そしてそれはストーリー的にはヒロインと恋人を引き裂く邪魔立て行為なのだが)、それもやむを得ない話だし、カノジョもしまいには狂言妊娠やらプチストーカー化やらで迷惑女と化すが、それまでの彼女の努力や献身を見たらそれも仕方なしと思えるくらい、あれこれと酷い目に遭う。「これからはケンとして生きるね」などと宣言されて喜べども、結局中身はコウジなので裏切られる。

本来であれば、主人公二人の悲恋に涙するのだろうが、(窪田くん目当てのせいか)彼の周辺に同情しちゃって同情しちゃって、恋人を亡くした悲劇のヒロインにさっぱり肩入れできなかった。早く持ち主に身体を返してやれ!!!

物語のラストでようやくケンの身体は本人の魂に返され、その時の彼が、話し方もしぐさも本当に別人のようだったので、あーやっぱり上手いねえ、と感心して終わった。「時々大学生の魂が戻って来る」っていう設定だったらもっと面白かったかも知れない。

その他、窪田くん視点での見所と言えば、コウジはピアニストだったという設定なので、その魂が宿ったケンがピアノを弾く場面がたくさんあり、手がやたら綺麗に撮られているあたりかな。

ヒロインは髙橋かおりで、彼女も手がとても綺麗だった。死んだ恋人役(大学生の中に入っている人)は岡田浩暉で、『デート』の胡散臭い心理カウンセラー役で観たばかりだったので、関係ないのにおかしくてたまらなかった。

今年前半の何本か、まとめ

アメリカンスナイパー

 実話ということを差し引いても、もっとドラマチックに描くこともできたと思う。

例えば、何か一つの目標を設定して達成するまで(強敵を仕留めるまでとか)を描くとか、何か印象的なトラウマポイントを作り(子供を誤射してしまうとか)、それが忘れられずに狂うとか。そうしたらもっと分かり易くなるし、盛り上がりもする。

でも監督はそうしない。盛り上がらないように盛り上がらないように、終わりの見えない戦争と、それに取りつかれてじわじわ狂っていく戦士を描いている。終わりがないから戦場に後ろ髪をひかれ、帰国しても「自分ができたかもしれない何か」について考えることを止められない。

よくこのトーンを保てたなと思う。

実際問題、目標を一つクリアしたところで戦争は終わらないし、ひとつの分かり易い出来事が理由で精神が狂うわけでもない。次から次へ敵は出てくるし、戦場にいる緊張感の影響は、そんなに単純なものではないだろう。

淡々としていたのはまた、家族が存命だからということもあるだろう(お子さんに配慮して殺害シーンは省いたとWikiにはあった)。弟さんも劇中、精神状態が心配されたにも関わらず(父親は「アメリカの男はかくあるべき!」的な人物だったし、兄は英雄だし、つらい立場になってやしないか)、その後どうなったのか曖昧にしてあったのも、そういう配慮なのかもしれない。

その「淡々」の中で、ちょっと面白かったのは敵方のスナイパーの存在だった。まるきり鏡のようなのだ。そしてあの銃弾が届いたときに、二人はリンクした。そして、どっちが倒れようとも、何も変わらない。

ただ、これはアメリカの人や、戦場および周辺国の人が見たらもっと違う感慨が湧くはずなのだ。彼らにとってはあの戦争はもっと身近なものだろうし、主人公本人に知り合いが助けられた人もいるかもしれない(そして殺された人も)。主人公の活躍や死について、向こうの人はもっと生々しい記憶があるだろう。この映画を見る時は、現実の記憶で味付けするんだろうと思う。

 

フォックスキャッチャー

あまりにも恐くて態度に困る。あそこまでやるとホラーかコメディだ。あんなに描いてることはつらいのに。

 

イミテーションゲーム

切ない話。センチメンタル過ぎる嫌いも。

カンバーバッチにとってあの役はハマり役だとも言えるし、安易過ぎるとも言える。もうアスペルガー的な人物を演じるのはシャーロック以外断る位でいいんじゃないかなとすら思った。余計なお世話だが。

 

博士と彼女のセオリー

美しい話としては描かれていなかったけれど、

魅力的で聡明な女性が浪費されていくさまが怖かった。差しのべられた手を「当然」と思うことも、思われることも。家族が誰もろくに助けてくれないことも。

毎日は、続いていくものだから、ひとつひとつこなすことに果てはない。1~2年で死ぬと思われた恋人と結婚して、あそこまで長く介助生活をすることに、こんなはずではと思わなかったかしら。

 ひたすらに頑張るヒロインが孤独で孤独で、もういいよ、あの教会の人と駆け落ちしちゃえよ、と何度も思った。お互い思いやる気持ちがない物語は、自分にはつらい。

君が生きた証

「学内の銃乱射事件で息子を亡くした父親が、息子の遺した音楽を作者を明かさず演奏するようになり人気を博すが、バンドの仲間に秘密がバレてしまい…」という話と認識して観た。予告編では、また心の傷を音楽で癒す系の話か…とちょっと食指が動かなかったのだけれど、とても評判が良いので腰を上げた。

 
『君が生きた証』予告編 - YouTube

 

結果、ほんとうにとても良かった。第一にとにかく楽曲が素晴らしい。だからすとんと物語や登場人物にはまれた(つまり、個人的には『ビッグ・アイズ』とは逆の状況だ)。気弱でいかにも人見知りな若者が、バーで演奏された楽曲に惹かれて主人公に声をかけて、どんなに邪険にされてもしつこく一緒に演奏しようと食い下がるのだが、楽曲が良いから、とてつもない勇気を振り絞れるんだなと納得できる(ステージ前に緊張のあまりトイレに篭城して吐き続けるようなキャラなんだから、どれだけの勇気だったか!)。久しぶりにこれサントラ欲しいなと思った。

息子は序盤ちょこっとしか出てこない。だから映画を観ている方には、どんな子だったのかさっぱり分からない。でもそれは父親の方も同じで、父親と観客は楽曲を通じて、彼はどういう人だったの?とあれこれ想像する。実は孤独だったのか、どんな悩みがあったのか、毎日何を考えていたのか。

人について深くあれこれ想いを巡らすというのは大事なことなんだろうと思う。他人への興味がわいて、人とのつながりができていく。

そんな父親を観ながら、どうして息子の作品だということを隠すんだろう?と、考えていた。遺族としてあれだけマスコミに追いかけられていたし、どうしてもセンセーショナルになってしまうからだろうか。息子の生きた証=遺された曲なのだから、あくまで楽曲の良さに注目してもらうことに重点を置いたのか。

自分の出した答えは、半分は合っていたと思うけれど、半分は全く見当違いだった。自分は結構勝手に物事の前提条件を狭めてるんだなぁ、と衝撃。

ここの所読む本やら映画で、ちっぽけな一人の人間が一生で出来ること、出来ないこと、歴史に名を残すこと、残せないことについて考えさせられることが多かったのだが、本作もそう。息子は歴史に名前を「残した」と言える。でも、歴史に残ったものが全てでもない。残らなかったものの方がいいものなことだってある。

彼は音楽で父親と若者を出会わせ、父親とその若者の人生をちょっとだけいい方向に変え、次の人生へのドアを開けた。それは歴史には残らない部分だけれど、ずっと素敵な事実だ。

この作品、時間の経過の表現も上手かった。

葬儀から帰って来た父親がぼろぼろの状態でレンジにピザを放り込み、さて、そのピザを取り出す場面かと思いきや、もう何日も経っているというところ。その間どんなに荒んだ様子だったかは、キッチンの様子や服装から分かる。そしてあの日からずっとレンジにピザを放り込んで暮らしている。

それからバンドが徐々に育って行く様子。お客さんがファンとなり、それが増えていって、だんだんライブも盛り上がるようになり、掛け合いの「お約束」なんかが出来て。それだけの期間、バンドは一緒にやっていて、その間主人公はバンドを楽しみつつ、色々と思い悩み苦しみ、バンドメンバーはそれぞれ夢を見ていた。

映画で描いていることは、生半可な時間では解決できないことだから、走らせるところは走らせ、そして大事な所で立ち止まる緩急が見事だった。