観た物をメモ
ミカエル
1924/ドイツ/カール・ドライヤー/サイレント/ピアノ伴奏付き(恒例の楽しみ)
老画家と若いモデルもの。老人は美しい若きモデルにひたすら与えられるだけのものを与え、何があっても許し、対してモデルはそれを欲しいままにしながら恋人に走り、老人の死に目にすら現れない。
…という話を、男性同士で。年代的にかなり挑戦的な作品なのだろう。
老画家はもちろん切ない限りなのだが、これが男同士だと切なさが倍増するのはどうしてなんだろう。関係性がよりかけがえがないものになるからか。画家役のクリステンセンの哀しいまなざしに酔いしれた。あんな若造のどこがいいのか知らん。顔か?顔か。
老画家が伯爵夫人の肖像を描こうとして目がどうしても描けず、若者に代わりに描かせるくだりがあって、恋に落ちる二人の描写としては新鮮。「目」はそれだけ大事だと作り手は思っているんだろうなと。
全く話は変わるけれど、執事長(?)の白いヒゲが見事で、主人を心配する忠実な様子に見惚れた。
湿地
2006/アイスランド、デンマーク、ドイツ/バルタザール・コルマウクル
寒々しく水分の多いサスペンス。
タイトル通り、全てがどんより。哀しい血のつながり、上手くいかない親子関係、悪徳警官と、もみ消された哀しい事件。疑惑の家の床板をめくると泥沼が広がっていて、ビニールに包まれた死体が大きなドブネズミまみれで沈んでいる、あのずぶずぶの様子。
荒涼とした大地、大地との境目なく唐突に海が広がり、寒々しい荒波が打ち寄せる独特の風景、そして無愛想でたくましい人々。
どうしてだろう、この作品が今回は一番好きだった。
主人公の警部がドライブスルーのお弁当屋さんに行き、「いつもの?」と聞かれて「羊の頭をくれ」と(え?羊の頭?)。そして本当に灰色がかった羊の頭の丸ごと煮込み弁当を手に入れ、最初ナイフで削いで食べ、次に手で割ってまにまにと食べ、まことに不気味だった。(あれは向こうでは普通の食べ物?幾分、意図的な不気味演出?この作品、グロい場面と食べている場面を組み合わせているんじゃって所が何カ所かあったのだが)
過去のレイプ事件を調べていて、被害者を捜すのに初老の女性を尋ねては「あのぅ、レイプされたことって…」と聞いて回るの、おかしかったな。だんだん噂が回って来ちゃって、聞かれる方も「ウチにも来たわぁ!」ってなるコミュニティの狭さ、リアルなんだろうな。
刑事マルティン・ベック
1976/スウェーデン/ボー・ヴィーデルベリ
先に『湿地』を観ていたので、ああこれも刑事さんが地味にこつこつ事件を解決していく話なのかなぁと眺めていたら、話がどんどん大掛かりになり、主人公の刑事さんがこつこつ捜査をしているのと全く別な所で大アクションが始まる謎構成だった。遅れて到着して、これから活躍?って期待したら撃たれちゃうし。
あのヘリコプターの作戦は、どう考えてもぶら下がり手が死ぬし、いい作戦とは思えないので、多分シーンとして必要だったかではなく、ヘリコプターアクションを撮ってみたかっただけなんじゃないかと思う。夢と希望先にありき。
それにしても世界は悪徳警官で満ちている。
2011年/ノルウェー/ヨアキム・トリアー
薬物依存治療施設、自殺未遂、真夜中の疾走。
若者映画的なテーマや映像センスだけれど、主人公は30代。もういい大人で、友人の中には結婚して子供がいる人もいる、そんな年齢。そして薬物依存といっても、そういう環境で育った訳ではない。家庭はどうやら知的階級で、きちんとした教育も受けている様子。でも人生が立ち行かない。
これがイマドキの世界の有様なのだろうな、と思った。「若い時の過ち」で話は終わらないのだ。どこの世界でも、そんな風にならなそうな人がちょっとしたボタンの掛け違いで思いもよらず足下を見失い、居場所を失ったまま大人になってしまったり、大人になってから深みにはまったりしているんだなと。
終盤、主人公が実家に行く場面でさ、ピアノがあって本がたくさんあって、モアイ像のミニチュアとか博多人形みたいのがあってさ、こういう場所で育って、ピアノ弾けたりなんかもして、そうすると友達も似たような環境で、いい大学に行って、社会的に成功している人もたくさんいるだろうし、なんだか余計にやりきれないのかもなと思った。
映画自体より、「若者映画っぽいのに30代映画」として、今世界がひっそり抱えてる問題について考えさせられた点で印象深い。
ボス・オブ・イット・オール
2006年/デンマーク、スウェーデン、アイスランド、フランス、イタリア、ドイツ/ラース・フォン・トリアー
トリアーは苦手なのだけれど、おっさん2人が木馬に乗っているスチールが可愛かったのと、コメディだと言うので見てみた。
気弱な会社経営者が嫌われ者になりたくないあまり、正体を隠して社員に紛れ、全ての責任を幻の「ボス・オブ・イット・オール」になすり付けているうちに辻褄が合わなくなって、役者を雇って切り抜けようとするも、どんどん流れが悪い方へ行く話。
ちょっと監督の存在が強過ぎるように思ったけれど(言い訳系ナレーションを入れたりする)、どこの会社にも似た問題があるよなぁ、などと、楽しめた。トリアー好きになった!って程ではないけれど。
取引先のアイスランド人のボス(フリドリック・トール・フリドリクソン演じる)が、やたら「デンマーク人め!お前らのせいで俺たちは何百年も虐げられて来た!」とわーわー怒鳴り出すのがおかしくって。やっぱり近隣国ってどっこも仲が悪いものなのか知ら。
経営者と役者がこっそり打ち合わせをする場面が、動物園とか回転木馬の上とかパンダのアイス食べながら映画館とか、とにかくばかみたいで、ちょっとかわいらしかった。
そんなこんなで今年は5本。来年もまた!